こんにちは。ケンスケです。
日本史の中で、江戸末期から明治初期にかけての時代では多くの暗殺事件が起こりました。
歴史的に有名な事件も、あまり知られていない事件も。
時代を動かしたものも、時代の流れとは関係のない場面で起きたものも。
これらの幕末の事件を「暗殺」という切り口で小説化したのが、司馬遼太郎。
その本は、
【幕末】(文春文庫)
江戸末期から明治にかけて起きた12の暗殺事件の背景をストーリー化した小説です。
幕末に生きた若者たちの姿が蘇る小説。
幕末~明治維新の時代が好きな人なら読んでおきたい本です。
『司馬遼太郎「幕末」江戸末期に起きた12の暗殺事件を描いた短編集!』
○江戸末期~明治維新を知りたい!
○司馬遼太郎ファン
○歴史時代小説が好き
幕末期に起きた暗殺事件を物語化
アメリカのメリー提督が率いる黒船が来航したのが、1853年(嘉永6年)。
その翌年、幕府と米国は「日米和親条約」(にちべいわしんじょうやく)を結びます。
それまでは、長崎の出島など限られた港のみでオランダや清国(中国)との交易、入国を認められる状態でした。
鎖国していた江戸幕府がペリーの来航によって、開国へと舵をきることになった出来事でした。
このときに江戸幕府で政治を任されていたのが大老の井伊直弼(いいなおすけ)。
天皇の承諾を得ないまま条約を結んだ幕府の政策を批判する者が出始めます。
さらに同時期に起きた将軍後継問題。
井伊大老は後に14代将軍となる徳川家茂を推します。
後継を争った一橋慶喜は、水戸藩の出身。
水戸藩は尊王(天皇を敬う思想)の篤い国です。
朝廷の許しを得ずに米国と条約を結んだ井伊大老を批判します。
井伊大老は幕府の政策に批判的なリーダーたちを投獄します。
これが、有名な「安政の大獄」。
これらが、小説【幕末】の最初の作品に描かれる「桜田門外の変」という事件につながるわけですね。
「桜田門外の変」によって、暗殺が時代を変える力があると信じてしまう人々が現れ始めるのです。
【幕末】では、12の短編が収録されています。その時代を必死に生きている主人公の姿が描かれているんです。
明治に出世した人
【幕末】のテーマは、「暗殺事件」です。
・・・といわれると、「陰謀」めいた物語になりそうですね。
でも、実際に読んでみると「陰謀」というよりも、その人物の「熱い想い」が描かれているんです。
主役たちはどの人物もなにかに対する「思い」から事件へと向かって突き進んでいきます。
器用に時代に流されて出世していく人物。
不器用に自分の思いを貫いて散っていく人物。
桜田門外の変が起きてから、幕末の京都の志士たちの間では、「暗殺」が評価される時期がありました。
その人物たちの中には、明治維新後に出世して政界で活躍した者もいます。
もちろん、そのまま散っていった者も。
【幕末】を読んでいると、その「差」はあまりにも微妙で紙一重の差だということが感じられます。
もともと尊王攘夷から始まった「天誅組」も、それを貫き通した人物と時代に流された人物で、維新後の評価がずいぶんと変わってくるところが興味深いです。
尊皇攘夷の名のもとに人を斬っていた人物が、後に総理大臣になるなんて考えられるでしょうか?
【幕末】では、田中顕助(田中光顕)が何度も登場します。
土佐藩出身の志士で、幕末期には土佐勤王党、陸援隊などで活躍していました。
維新後は出世して、陸軍少将や宮内大臣など要職を歴任しています。
政界を引退すると、幕末に散っていった同士たちの遺品を収集しています。
幕末の攘夷志士たちの功績を後に遺すために、茨城県大洗町に【幕末と明治の博物館】を建設しています。
幕末ファンにはたまらない品々が遺されているので、訪れてみてはいかがでしょうか。
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ちなみに田中顕助(光顕)は昭和14年95歳まで存命しました。
登場人物たちの熱い想い
もっとドロドロした陰謀が描かれていると思いきや作品を読んでみると、幕末の人々は意外にも潔く生きていたように感じます。
ちょっとした縁で人のために命をかけた人物。
周囲に認められたくて命をかけた人物。
時代が大きく動いた幕末には、生きていた人の分だけストーリーがあることを思い出させてくれます。
なかなか悲壮な結末を迎える物語も司馬遼太郎の筆にかかると、「潔い結末」に見えてくるから不思議。
【幕末】には、歴史好きなら知っている有名な人物から、あまり知られていない人物までたくさんの人物が登場します。
その中で印象に残るのが、「歴史の表舞台に登場しなかった人物」。
ほんの一年前までは仲間内で称賛された行いも、維新後では断罪されるという時代の流れ。
時流にのったものとそうでないものの対比がすごくうまく描かれている小説です。
歴史の授業では、「明治維新」「文明開化」というとなんだか、華々しい出来事のように教えられました。
ですが、その歴史の裏側では、小説【幕末】にあるように無数の悲劇があったんだと感じられます。
最後に。
司馬遼太郎作品は、たくさんの歴史時代小説を書いています。
そのなかでも私が好きなのが、幕末モノ。
時間をおいて何度も読み返している作品がいくつもあります。
どうしても時代小説では、斬り合いのシーンが付き物ですが、司馬遼太郎作品ではあんまり血なまぐさくないのが特徴。
その時代に生きた人々の思いが感じられる作品が多いです。
今回紹介した【幕末】もそのひとつ。
小説や映画ではあまり取り上げられない人物たちにも、光を当てて輝かせる筆運びは司馬遼太郎ならではと感じさせる作品でした。
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最後まで読んでいただきありがとうございました。
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